世界から注目される日本の高齢化(1)ビジネス

日本は世界一、高齢化が進んでいる国だ。WHOの調査によると加盟国194カ国の中で、日本は60歳以上の人口比率が31%と最も高い。また15歳以下の人口は13%と最も低い。こうした世界的に見て稀有な国は、今世界中から注目を浴びている。先進各国は少子高齢化という同じ悩みを抱えているし、お隣の中国では一人っ子政策の影響で日本以上に高齢化のスピードが早いと言われる。来たるべく高齢化社会に備えて日本の状況を観察しているのだ。  今回の特集では日本の高齢社会における課題を「ビジネス」「雇用」そして「介護」の3つの分野に分けて考えて見た。

Part 1「ビジネス」:高齢者向けビジネスが日本を活性化する

これほどの高齢化と少子化が進んでしまった日本。高齢者数の増大により、現在の年金・医療・介護のサービス水準を維持するだけでも、 税金投入を毎年1兆円以上増加させる必要がある。こうした問題の解決には子供の人数を増やす、あるいは移民を受け入れ生産人口を増やすなどが考えられるが、一朝一夕にはいかない。そこで重要なのは高齢者が元気であることだ。元気であれば働いて税金を納められるし、働いていなくても元気であれば医療費も掛からない。日本では60~64歳の約6割、65歳以上の約2割が働いているが、残りの人も多くの人が元気な生活を送っている。2010年の国際比較でも日本の60歳以上の人の実に9割が介助の必要がなく「まったく不自由なく暮らせる」と回答している。

高齢者向けビジネスが日本を活性化する

高齢者向けビジネスが日本を活性化する

極端な例を出せば、今年5月に80歳になる三浦雄一郎さんが世界最高齢でエベレスト登頂に成功した。彼は70歳と75歳でも登頂に成功している。三浦さんはプロのAlpinistなので例外としても、一般のサラリーマンだった人も定年後、実に有意義なライフスタイルを送っている。田舎にある実家に戻って農業をやる人、元同僚と写真倶楽部を作って都内に写真を撮りに出かける人、近くのジムに通いながら囲碁倶楽部に入ってたまに同窓会などの飲み会に参加する人、夫婦で海外旅行に出かける人…、現役時代には少なかった「時間」をふんだんに使って充実した毎日を送っている人が多い。

今年80歳になったNorio Edaさんは年に数回、海外に住んでいる親族を訪ねるという。服装も、ジージャンにジーンズと若者らしい格好をしている。「若い格好をして、気持ちだけでも若くいたい」と話す。Edaさんは70歳まで現役で空調の工事などの現場監督として働いていたという。その後、英語を趣味で習い始め、今ではネイティブも驚くほど上達した。「耳が遠くなって、ヒアリングが苦手。話すのはなんとかなるんだけど」と謙虚に語る。

組織率の低下の背景

定年後の生き方は自由で実に多様になってきているようだ。しかしこうした傾向に影響を受けている団体がある。Japan Federation of Senior Citizens Clubs, Inc.だ。去年設立50周年を迎えた老人の全国組織で約11万クラブ、約660万人の会員を有する。ゲートボールなどのリクリエーションの他、清掃活動など地域に密着した活動を行っている。概ね60歳以上の人が対象だが、近年組織率が低下しかつては定年後に4割の人が入っていたがいまでは8%程に低下しているという。千葉県支部の事務局で働くHiroya Yoshitakeは「多様な生き方が考えられるようになったからではないか」と低下の背景を分析する。またよく聞かれるのは「老人」という名前に対する抵抗感だ。「老人という言葉に嫌悪感を覚える人がいる」とYoshitakeは話す。また各クラブの会長になる人がいないため自然消滅するケースもあるという。「会長は各会員に連絡をしたり、上部団体に出席したり面倒な仕事が多い。会長になりたがる人がいない」とある会員の女性は話す。束縛されたくない、自由に生きたいという人が増えているからではないだろうか。 そんな年齢相応の生き方ではなく自分の好みやセンスを中心に、自らをプロデュースするシニアを応援するイベントが開かれた。大人のエンジョイ博、略して「オトハク」の第一回が5月中旬に開かれ、3日間で1万人以上の人が訪れた。Healthcare 関係の商品やサービス、健康食品、各種カルチャースクール、旅行業者など高齢者をターゲットにした企業が出展。同時開催として、ウォーキング大会、社交ダンスパーティ、体力測定会、カラオケ大会が開かれた。大会主催者のNippon Exhibition Co., Ltd. 代表のKazuo Tsurumiはイベントの名前について「高齢者や65といった老人を想起させる言葉を使わず、年齢に関係なく、大人のためのイベントというニュアンスを出した」と話す。

会場に来ている人の年齢はだいたい65歳以上だが、大きな声で会話をし、時より笑顔を見せみな元気そうだった。「千葉県にある幕張までわざわざ足を運ぶ人はみな元気。そして新しいものを吸収しようと積極的な人たち」とTsurumiは言う。高齢者の中でもこうした積極的な人はグループのオピニオンリーダーである可能性が高い。つまり、彼らにリーチすれば企業の商品やサービスなどを口コミで広めることが可能なのだ。

高齢者は今何を求めているのか?

企業の出展ブースでは来場者にアンケートを取ったり、商品のサンプルを配ったり、自社のサービスを説明したりする企業の担当者がいた。このようなコミュニケーションを通じて高齢者のニーズを探ることが目的だ。飲料メーカー大手のサントリーではAll Freeというノンアルコールビールを宣伝。来場者に無料で試飲してもらっていた。糖質、カロリーそしてアルコールの3つ全てゼロ。つまりAll Freeなのだ。セキュリティー会社大手のSECOMでは高齢者向けのホームセキュリティーサービスとして、病気や怪我をしたときの緊急通報ボタンや操作のしやすさなどをPRしていた。

しかし、前述の老人クラブが衰退しているという事例からも、「高齢者向け」と謳っている宣伝には違和感を覚える人もいた。千葉県から来た来場者で70代の男性は「高齢者向けとか老人とかいう言葉は良くない」と憤っていた。Tsurumiはサントリーのようなアプローチがいいという。「先ずは親近感を持ってもらうことが必要。サントリーのように無料でどんどん配って知ってもらうことから始めればいい」と話す。

サントリーFREEを高齢者へ配る

サントリーFREEを高齢者へ配る

近年のニュースには振り込め詐欺や高額な健康商品の売りつけ、架空の投資話など高齢者を狙った犯罪が多い。また高齢者は人生の先輩という意識からプライドも高い。そうした状況の中で、高齢者は財産を持っていても財布の紐は硬い。その紐を緩めてお金を社会に回すことが今の日本社会に必要だとTsurumiは話す。

孤独が怖く、仲間意識が強い

彼らの年代はメールを持ってない人も多い。会社という団体からも外れ、リーチすることが難しい。だからこそ、口コミを重要視し、仲間意識が高い。そうした特性を認識してアプローチすることが大切だ。「高齢者は金を持っている。だから買ってもらった当然というような態度は最悪」とTsurumiは話す。若者であれば、SNSやネット広告、メールなどでリーチできるが、彼らの世代には街頭でビラを配ったり、サンプルを提供したり、相対したりする昔ながらの手法を使って地道にアプローチしていくことが大切だという。

また彼らの世代は孤独を一番恐れる。企業にいかに仲間意識を持ってもらうかも重要。「時間は掛かるが、こうした泥臭い汗をかくアプローチが一番効果的。生きていくためにはそれほどお金を使わなくてもいい。レジャーや趣味などそれ以外の活動にお金を使ってもらわなければ、日本経済の縮小を止めることはできない」とTsurumiは熱く語っていた。

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