効果的なフィードバックの仕方
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これからはフィードバックの時代
ネットが世の中の隅々まで広がることで、フィードバックの全盛の時代に突入しました。フィードバックとは何でしょうか?レビューとフィードバックの違いは何でしょうか?
レビューとフィードバックの違い
フィードバックというのは日本語としてかなり定着していますが、より広い意味でとても重要になってきています。 レビューもフィードバックの一部です。Amazon のレビューを見て買うかどうかは決めてる人は多いでしょう。また食べログの評価を見てどのお店にするか決めてる人、 Googleマップで飲食店だけでなく様々なサービスを提供しているお店についてのレビューを確認して決めている人も多いでしょう。 どこか身体の具合が悪くなった時に病院に行こうと思った時 Google で近くの病院を検索したことがある人も多いでしょう。 でも評価が最悪だったらそこに行きますか?
レビューというのはフィードバックの一部です。レビューとフィードバックの違いはレビューは商品やお店など物理的なものであるのに対して、フィードバックは人物に対するものです。ここでは人物に対するレビューをフィードバックと呼ぶことにします。レビューを読むことによってお店はお客さんがどういった点を評価し、どういった点に不満を持っているかがわかります。悪い点を指摘されても、卑屈にならずに、「よい改善点を指摘してくれた」「貴重な意見だ」と捉えることで、お店の発展に寄与します。フィードバックもうまく行うことで、その人物の成長に寄与するのです。
フィードバックの目的
ここでフィードバックの目的について改めて確認してみましょう。
現状維持を打破する
もし何か顔についていたら鏡を見ればわかります。お昼ご飯を食べた後、自分の歯に海苔がついていたら鏡で確認して取り除くことができます。しかし日々の仕事の進め方や、先日のプレゼンテーション、あるいは顧客との電話のやり取りなど、鏡を見て客観的に修正することができないようなことがあります。 鏡には映らない自分の姿を自ら正すにはどうすればいいでしょうか。自分の行動をビデオに収めて後で振り返るという方法もありますが、四六時中そんなことをすることはできません。やはり他人からのフィードバックをもらうのが一番効果的です。
何か鏡を見て自分の姿を修正する時と同じように、フィードバックは今の自分を直すきっかけになります。つまり現状打破です。フィードバックを現状維持から抜け出すための力にする必要があります。 安全地帯で止まっていては衰退する一方です。 従業員同士のコーチングやフィードバックによってお互い切磋琢磨できるような関係になりましょう。
フィードバックは社員のモチベーションを高める
現状打破だけでなくフィードバックをすることによって従業員の生産性が高まるという調査があります。また実際に会社内におけるフィードバックが従業員の生産性を高めることは多くの企業が認めています。 以下の調査がアメリカのコーネル大学によって明らかになりました。
- 従業員の調子に注目しフィードバックをする上司は、フィードバックを否定する上司と比較して、積極的に取り組む従業員の数が30倍も多い。
- 肯定的か建設的かに関係なくフィードバック定期的に実施している会社は、従業員の積極性が高い。
しかしながらフィードバックに慣れていない日本の会社は多いようです。 未だに職人的な気質の雰囲気の会社が多く、先輩の仕事を見て真似ることを要求するような、きちんとした指導もフィードバックもないような教育スタイルが定着しているところがあります。 しかしながら最近の研究でフィードバックを行わない場合の損失は大きいことが分かってきました。
フィードバックをうまく行うことによって従業員の生産性ややる気を著しく向上させることができます。 では実際にどのようにすればいいのでしょうか。
フィードバックをするときのコツ
フィードバックの前提条件
フィードバックをする前提条件として以下のようなことが挙げられます。
- 人は成長するものだというマインドセットを持つ(知性や才能は固定するものだとは思わないこと)
- フィードバックのやり取りを習慣化する(年に1回程度ではなくて頻繁に)
- 直接的な対話の形をとる
- フィードバックを懲罰的な措置とはせずにいかに生産的なのか進歩的な対話の機会とする
- フィードバックする人もされる側も善意の意思を持つ(意地悪で言うのではない)
- フィードバックによって優れたパフォーマンスを目標とする
- 透明性を意識し率直で誠実なコミュニケーションになるようにする
- フィードバックに対してオープンかつ素直になる
- 積極的に従業員に自分のアイデアや意見を表明するように促進する
企業としてまた部署としてあるいはチームとしてこのような雰囲気の醸成に努めましょう。お互いに信頼関係があり風通しの良い文化でなければなかなかフィードバックが有効に活用されません。
フィードバックの流れ
上述したように、フィードバックの前提条件として一番重要なのがお互いに善意のフィードバックであるという認識が必要です。そして、お互いの信頼関係がないとなかなかうまくいきません。特にフィードバックをする側は注意する必要があります。「部長は私を打ち負かす落としているのか」「部長のことは信用できない」このように思われたらどんな良いフィードバックでもなかなか良い結果が生まれません。
そこでフィードバックをする前としている時とまたフィードバックの後で注意すべき点をあげます。
フィードバックの会話の前
- 意図:伝えようとすることを整理する。
- 理由:フィードバックを行う理由を明確にする。
- 信頼:自分が相手のためを思っていることを伝える。
このようにフィードバックをする前に内容を整理しましょう。
フィードバックの会話中
「あなたの目標を達成する手助けをしたい」「...の理由をもっとよく理解したい」「共通の認識を持ちたい」「あなたのキャリアに役立つと思います」など、このような言葉を投げかけることで聞き手を安心させ、信頼してもらうように努めましょう。その上で次のような流れを考えてフィードバックをします。このフィードバックの構成を英語の頭文字を取ってSBI (Situation, Behavior, Influence)と呼ぶことがあります。
①状況の説明
まず状況を説明します。フィードバックの話し合いの初めに具体的な状況や背景の説明をします。例えばプレゼンテーションにおける改善点であれば、どこでいつ誰に対して行われたかどのような内容のプレゼンテーションかといったことを伝えます。
②行動の説明
そしてフィードバックを受ける人の行動です。上記の状況においてどのような行動を取ったか。プレゼンテーションであればどのような話し方をしたかどのような内容だったか聴衆の反応はどうだったか、そうしたことを伝えます。重要なのは、思い込みではなく客観性があることが必要です。「あんな言い方では伝わらない」ではなく「多くの人が退屈そうにしていた」など、具体性を持たせましょう。その上でこのような質問をしましょう。「自分を客観的に見た場合どの程度できたと思いますか」「こういう状況だったらどうなったと思いますか」
③影響の説明
次にその行動によってどのような影響を受けたかを伝えます。個人、部員、 会社のビジネスあるいは取引先に与えた影響です。 プレゼンテーションであればそのプレゼンの結果どのような影響があったでしょうか。良い影響、悪い影響、中立の影響、その他どのような影響が具体的にあったでしょうか。 フィードバックを得る人がこのフィードバックによってどのように学習しどのように成長していくかそうした展望を考えながら話をします。
その上で次のような質問をすると良いでしょう。「何か一つ変えるとしたらどんなことをしますか」「もしこんなやり方をしたらどうなったと思いますか」「今回の件で学んだことは何ですか」など、 相手に考えさせるように話を進めましょう。一方的にフィードバックをするだけでは聞いてる側はどうしても防戦しているような気分になります。
また悪い点だけでなく、前回と比べて良くなった点を指摘しましょう。 「あなたがよくなった点は...」「あなたの努力が表れているのは...」「私がよいと思ったのは...」「あなたが粘り強さを発揮したのは...」など、改善点だけでなくこうした良くなった点も付け加えてフィードバックをすると良いでしょう。
フィードバックの会話の後
フィードバックが終わってからおしまいではありません。フォローアップも非常に重要です。
- 相手がフィードバックを理解したかを確認する。
- フィードバックの要点について相互理解をする。
- 必要であればサポートを申し出る。
- 次のステップについて話し合う。
特に次のステップについて話すことでより信頼関係が深まります。部下は「上司は本当に私の成長を応援してくれている」と思います。 1回きりのフィードバックであれば単なる思いつきで感想を述べただけだろうと思われてしまうのが関の山です。きちんと定期的に行い前回のフィードバックのフォローアップなどを行うと良いでしょう。
良いフィードバックと悪いフィードバック
フィードバックには良いものと悪いものがあります。それぞれの特徴をみてみましょう。
悪いフィードバックとは
タイミングが遅れる、 対立を恐れてフィードバックをしない、指摘が曖昧なこと、揚げ足を取るような懲罰的なもの、人格を否定するようなもの、否定的なフィードバックばかりのもの、 事実に基づかない単なる思いつきなど、本当に相手の成長を持ってフィードバックをしているかどうか。 単なる八つ当たりだったりイジメだったり相手を征服するための目的であったりするフィードバックは本末転倒です。
良いフィードバックとは
逆に良いフィードバックとはどのような要素があるでしょうか。下記のようなことが挙げられます。
- 率直で正直
- 定期的でタイムリー
- 具体的な指摘
- 相手の成長を考えた善意のフィードバック
- 継続的に提供されるフィードバック
- 肯定的なものを否定的なものまた中立的なものなど様々なフィードバック
- 人格を否定しない偏見がない客観的なフィードバック
- できるだけ一対一で行うこと
- 努力を認める
- 小さくとも改善があればそれを認める
また上記に加えて、もしあなたがマネージャークラスであればフィードバックをする上で自分がきちんと良い模範になっていることを確認しましょう。マネージャーがだらしなければその下で働く従業員も同じようにだらしなくなります。
上記のフィードバックの最も大切な点は率直で正直なところです。曖昧にしてはいけません。 また、タイムリーに行う必要があります。フィードバックをすべき点がわかった時点でしばらくしてからフィードバックを適宜行う必要があります。48時間以内が目安です。1週間経ってからあるいは2週間経ってからだと、フィードバックする側もされる側も記憶が曖昧になります。
また定期的にフィードバックを行うことで部下はどうしたところを重点的に修正する必要があるか明確になります。
フィードバックを受ける側の姿勢
ここまではフィードバックをする側の注意点についてみてきましたが、 フィードバックを受ける側も心すべき姿勢があります。 より素直な気持ちになることが重要です。 また受け身な姿勢ではなく積極的に質問することも大切です。下記のような事を質問してみましょう。
- とても興味深い指摘です。もっと詳しく教えていただけますか?
- 他にも気づいたことを具体的に教えてもらえませんか?
- そうした時にどうすれば良かったのでしょうか?
- 今後どのようにしたらいいと思いますか?
受け身ではなくこうした能動的な姿勢でフィードバックを聴きましょう。
全方向に対するフィードバックと企業文化
フィードバックと言うとどうしても上司から部下に対する方向を考えがちですができれば上にも下にもまた横にもベクトルが広がるのが理想です。会社にいる同じ同僚として会社の売り上げを上げ、利益を出し、世の中を良くすることは共通の目的です。例えばサッカーで得点を稼ごうと思えば色んな人にパスを出すと思います。 その人が上司であれ部下であれ同僚であれ得点をあげることは共通の目的です。自由闊達に善意をもっていろんな人にフィードバックができるような企業文化を築き上げることはとても重要です。
ある日本にある飲食店では360度評価といって先輩社員だけでなく、部下や同僚からの評価も聞いてバランスの取れた意見を集約する動きもあります。
上司から部下にフィードバックを依頼する
特にここで最も重要なのは上司に対するフィードバックです。なかなか部下から上司に指摘をすることは難しいのが現状です。であれば上司から部下に積極的にフィードバックをしてもらうようにお願いしましょう。上司としてのあなたが本当にフィードバックを求めていても、部下に納得してもらうにはちょっと時間がかかるかもしれません。 そこで次のようなことを心がけましょう。
- 積極的にフィードバックを依頼する。
- 自分の失敗、欠点、成長すべき領域を認める。
- 実際にフィードバックを受けるときは心を開き、喜んで受け入れる。
- 相手の話をよく聞く。
- 好奇心を持ち、質問をして理解を深める。
- 理解した内容を相手に再確認する。
- フィードバックをしてくれたことを感謝する。
上司としてもプライドが邪魔をし、こうしたことを実際に行うことは難しい人が多いでしょう。しかし、上司も人間であり完璧ではありません。ミスをしてしまうことがあります。それを事前に予防する上でも、部下からの指摘に耳を傾ける姿勢を持ちましょう。そうすることで、部下に対してもフィードバックをしやすくなります。
まとめ
ビジネスをするには人、物、金、情報と言いますが最も重要なのは人です。この人を成長させるには効果的なフィードバックが欠かせません。まずはフィードバックを自由闊達にできる企業文化を醸成し、上述のような方法でうまく定期的にフィードバックができるように日々の業務を組み立てましょう。
(島田亮司)
参考文献
『Six Tips for Giving Feedback in the Workplace』『The Best Gift Leaders Can Give: Honest Feedback』『Carol Dweck’s book Mindset』『Mind Your Errors: Evidence for a Neural Mechanism Linking Growth Mind-Set to Adaptive Posterror Adjustments』『Conquering Your Fears of Giving Feedback』