⑤インドで映画はなぜ人気があるのか?
2019年のデータによるとインドの年間の映画館入場者数はおよそ10億人。意外と少ないように感じるかもしれません。かつては30億人ほどいたと言われています。最近はネット経由で自宅で気軽に映画を楽しめるようになり、わざわざ映画館へ足を運ぶ人が少なくなりました。しかし、制作本数は年間1,800本以上と年々増え続けています。
インドの人口2020年時点で13.8億人とアメリカよりも遥かに多いことから、制作本数も世界一です。 インド映画は世界で多くの地域で見られているアメリカ映画に比べ、東南アジアなどで上映されている以外ほとんどは国内向けです。 それでもなぜ映画産業が盛んなのでしょうか。
まずインドでは各家庭へのテレビの普及率が低かったことが挙げられます。 かつて世界中で娯楽の王者だった映画が斜陽になった理由は、テレビの普及によるものです。 またインドでは魅力的なテレビ番組が少ないこともあり、ゴージャスさや満足度においてテレビはまだ映画の力にはかなわなかったのです。
制作本数が多い理由は、インドはアメリカや日本などと異なる多言語国家だからという理由もあるでしょう。 もちろん欧米でも多言語国家はありますが、「国語」はたいてい一つです。その点、インドは州ごとに公用語があるため20以上の公用語があります。そのため制作される映画も言語ごとになり、ローカル色が強いものになるのです。
言語別でもっとも本数が多いのが北インドでの共通語ともいえるヒンディー語映画で、 南部のタミル語やテルグ語映画がそれに続きます。 ヒンディー語映画制作の中心地はムンバイで、ここで作られた映画は旧名のボンペイとアメリカのハリウッドをもじって「ボリウッド・フィル ム」と呼ばれています。日本では「マサラ・ムービー」と呼ぶこともあります。
インドはたいてい休憩を挟んだ3時間あまりの大作で、一本の中にアクション、コメディ、ドラマ、ミュージカルといろいろな要素が「ごった煮」のように入っているのが特徴でインドのヒット曲の多くは挿入歌なので、ミュージカルシーンはとくに重要です。 一本の中にいろいろ詰め込みすぎているせいか、どの映画を見ても印象が似通ってしまう傾向がありますが、インド人にはそれがいいのでしょう。
インドではスターシステムが機能しており、有名スターが出る映画に客が集まります。 日本でもヒットした『ムトゥ踊るマハラジャ』南インドのタミル語映画で主演のラジニカーントは「インドでもっとも高いギャラを取る俳優」とかつて言われました。
インドで映画が盛んなのは色々な言語が話されていることと、テレビの普及率が低かったことが原因なのです。