②なぜインドネシアでは緑色の服を着て海へいってはいけないのか?

ジャワ島の住民のほとんどはイスラム教徒ですが、 人々の生活の中に は、イスラム以前のジャワ的な風習や習慣がかなり残っています。 たとえば、山の神や海の神、精霊、方角による聖と卑などなど。 一神教のイ スラム教とは関係ない概念が、行事の中にも多く盛り込まれていますが、 人々はうまく共存させています。 そうした考え方は仏教と神道が共存している日本人にはわかりやすいかもしれません。

さて、ジャワの南岸のインド洋には、「ニャイ・ロロ・キドゥル」という海の女神(あるいは精霊)が住んでいると信じられています。 ニャイ・ロロ・キドゥルとは「南海の女神」という意味で、もともとは人間でした。 彼女は王族の娘でしたが、 結婚しないまま精霊のような存在になったと言われています。 彼女は自然のパワーを持ち、その怒りは地震や津波といった自然災害を引き起こすと信じられています。

ニャイロロキドゥル
緑色のレースをまとうニャイロロキドゥル

ジャワの王朝では、現在に至るまで代々のスルタン (王) は、 このニャイ・ロロ・ キドゥルを王妃の一人とする伝統があります。 もちろん女神と実際に結婚生活を送るわけでは なく、現実世界の王と自然界をつかさどる女神が結婚して人間界を統治するという、象徴的なものです。しかし昔の人は文字通り、スルタンは女神とたびたび会っていると思っていたようです。

中部ジャワの古都ジョグジャカルタの王宮の南に「タマン・サリ (水の宮殿)」と呼ばれる離宮がありますが、 この建物の地下道の一つは何十キロも離れた南の海の底にあるニャ イ・ロロキドゥルの宮殿に通じており、スルタンがそこへ人知れず通うことができるというのです。 また、毎年一度、スルタンの誕生日にラブハンと呼ばれる儀式が、 ジョグジャカルタの南のバラントゥリティスにあるバランクスモの海岸で開かれます。 この儀式では供物を海に流しますが、 これはニャイ・ロロ・キドゥルと王家の結びつきを確認するためのものです。

さて、緑色の服はニャイ・ロロ・キドゥルの好みの色。 人間が自分と同じ色の服を着て海に来ることを女王は許さず、その人間を海に呑んでしまうと信じられています。 だから今でも緑色の服を着て海へ行く人はいません。以前に数千人の死者を出したジャワ中部地震の時も、 人々は「これはニャイロロキドゥルの怒りだ」と噂しました。 ジャワの人々の生活の中で、 今も伝説は息づいているのです。

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