スペインの移民合法化から日本が学ぶべきこと——「開国か鎖国か」の先にある戦略的視点
2026年、移民政策をめぐって世界で正反対の動きが同時に起きています。スペインのサンチェス政権は約50万人の非正規滞在者に合法的な在留資格を付与する「特別合法化」に踏み切りました。一方、日本の高市政権は永住許可の年収要件引き上げや帰化に必要な在留期間の倍増など、外国人政策の厳格化を加速させています。

表面上は真逆に見えるこの二つの動き。しかしその根底にある課題——少子高齢化、生産年齢人口の減少、そして深刻な人手不足——は驚くほど共通しています。
スペインで何が起きているのか
スペイン政府は2026年4月、王令316/2026号を施行し、2026年1月1日以前からスペインに継続して5ヶ月以上居住し、犯罪歴のない非正規滞在者に対して、1年間の在留・就労許可を付与する制度を開始しました。申請期限の6月末までに約120万件の申請が殺到し、当初の推定50万人を大きく上回る規模となっています。
この政策の背景にあるのは、スペインの現実的な経済事情です。スペインでは外国人労働者が全労働者の約6人に1人を占めており、清掃、農業、建設、介護、物流といった分野を支えています。移民支援団体の代表は「EUは2050年までに約6000万人の労働者が必要になる。年金制度を維持するための社会保険料の担い手が必要だ」と指摘します。
合法化の狙いは明確で、すでに国内で生活し働いている人々をインフォーマル経済から正規の制度に組み込むことです。非正規のままでは税金も社会保険料も徴収できず、労働者本人も正規雇用者より低い賃金で搾取される構造が温存されます。エクアドルからスペインに渡ったある移民は「非正規で働いていると正規の人と同じ待遇は受けられない」と証言しています。
セウタ危機が突きつけた現実
しかし、この合法化政策が順風満帆というわけではありません。7月末、モロッコと国境を接するスペインの飛び地セウタに約6万人の移民が殺到する事態が発生しました。少なくとも72人が溺死や群衆の圧迫で命を落とし、深刻な人道危機となりました。
この事件を受けて、イタリアやデンマークを中心とするEU22カ国が「大規模な合法化はさらなる移民流入を招く危険がある」と警告。スペインの極右政党ボックスのアバスカル党首は「これは侵略だ」と激しく非難しました。
ただし、専門家はこの事件と合法化政策の因果関係は単純ではないと指摘します。国際難民支援団体リフュージーズ・インターナショナルのコニンディク代表は、モロッコ政府がスペインに政治的圧力をかけるために意図的に国境管理を緩めた可能性を示唆しています。実際、セウタに入った移民の大半は48時間以内にモロッコに帰還しており、合法化制度による定住を目指した動きとは性質が異なります。
日本は何を学ぶべきか
ここで日本の状況を見てみましょう。高市政権は2026年に入って矢継ぎ早に外国人政策を厳格化しています。帰化に必要な在留期間を5年から原則10年に延長(4月施行)、永住許可の手数料を現行の20倍となる20万円に引き上げ(10月予定)、そして8月に公表された永住許可ガイドライン改定案では「日本人世帯の平均を上回る年収」と「厚生年金30年加入水準の年金受給見込み」が要件として加わりました。
これらの施策の背景には、生活保護を受給したり社会保険料を滞納したりする一部の外国人への不満があるとされます。しかし、ここで立ち止まって考えるべきことがあります。
2025年末時点で日本の在留外国人は412万人を超え過去最多です。この増加は、日本の生産年齢人口が急速に減少しているからこそ起きている構造的な現象です。建設、介護、農業、物流——これらの産業はすでに外国人労働者なしには成り立ちません。この構造はスペインとまったく同じです。
スペインのケースが示しているのは、「すでにいる人」への対応と「これから来る人」への基準設定は、分けて考えるべきだということです。スペインは「すでに国内にいる非正規滞在者を社会保険と納税の枠に取り込む」という現実的な選択をしました。日本の厳格化路線は、すでに日本で生活基盤を築いている人々と新規受け入れの両方をまとめて「入口を狭くする」方向に進んでおり、結果として社会保険制度の支え手そのものを減らしてしまうパラドックスを生みかねません。
リフュージーズ・インターナショナルのコニンディク氏はこう述べています——「彼ら(ヨーロッパ各国)は経済が移民を切実に必要としているのに、政治がそれを許さないという、自ら作り出した不可能な状況に陥っている」。この指摘は日本にもそのまま当てはまります。
必要なのは「移民か反移民か」を超えた長期戦略
私たちManabinkは、ミャンマー・ベトナム・ネパールを中心とした外国人材の紹介事業を通じて、日本で働く外国人の現場を日々見ています。彼らの多くは真面目に働き、税金を納め、地域社会に貢献しようとしています。
もちろん、無秩序な受け入れがリスクを伴うことはスペインのセウタ危機が示す通りです。しかし同時に、門戸を閉ざすだけでは人手不足の現実は解決しません。韓国やオーストラリアとの外国人材獲得競争が激化する中、「選ばれない国」になることの経済的損失は計り知れません。
今の日本に必要なのは、「移民を入れるか入れないか」という二者択一の議論ではなく、すでに日本にいる外国人をどう社会に統合し、これから来る人をどう戦略的に受け入れるかという、長期的な視点に立った制度設計です。スペインの経験は、その成功も課題も含めて、日本にとって貴重な参照点となるはずです。
本記事はPBS NewsHour(2026年8月12日放送)の報道および各種国際報道を参考に作成しました。
Manabink合同会社は、外国人材紹介・積算BPO・VIP通訳ガイドの三事業を通じて、日本と世界をつなぐ架け橋となることを目指しています。


