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組織と自分を変えるヒント:社員からイノベーションを引き出す二つの方法

ジョン・コッター:組織がイノベーションを起こすために、タスクフォースを編成したり、特任部署を作ったりしても、なかなか期待した成果が出ないことに訝る経営者を多くみかけます。なぜ思うようにイノベーションが生まれないのでしょうか。実は、なぜ社員はせっかくのアイデアを表に出せないのか、ということに関連しているようです。イノベーションを起こすには簡単な二つのことを実践する必要がありそうです。Kotter Internationalのコンサルタント、ジャスティン・ワッセルマンが解説します。

By ジャスティン・ワッセルマン

 革新的な製品を生み出しているnest (https://nest.com/) という会社があります。どの家庭にもある電化製品の使いづらい点に着目をして、より使い勝手の良いものを製品化している会社です。例えば火災報知器。煙を感知したときに発するあのハイピッチな音は嫌ですね。たかだかトースターでパンを焼いているだけなのに、あの音を聞かされる時。それから、電池が切れかかっていると一定の間隔を置いて「ピッピッ」と鳴るあの耳触りな音も耐えられません。みんなが気付いているけど、そのままにしてしまっている問題って身の回りに結構ありませんか?もしかしたら初めは問題であるという認識があっても、今ではもう忘れてしまっているかもしれません。nestという会社はそうしたちょっとした問題に「こうでないといけないの?」という素直な疑問をぶつけているのです。

「こうでないといけないの?」という疑問はイノベーションを生み出す上で大切なことです。nestは日常生活で起こる問題点を解決して革新的な商品を作り出すことをビジネスにしている会社ですから、常にそうした疑問を意識していることでしょう。しかし、「こうでないといけないの?」という思考はイノベーションにつながる出発点ではないでしょうか。そう考えると、どの会社でも次の二つのことをすれば社員から優れた提案を引き出すことが出来ると思います。

  • 社員が「こうでないといけないの?」と思うことを共有するように正式にお願いすること。

  • その上で、社員にどんなことでも自由に話せる許可を与えること。

数年前に私が受け持ったクライアントに、ある都心の大規模病院がありました。当時、その病院はいかに平均在院日数を減らすかという課題を抱えていました。必要以上に日数が増えると病院の経営を圧迫することになるからです。その課題を解決するために、職種の垣根を越えて様々な人が集まり、タスクフォースが組まれました。外科医、看護師、管理部門で働く人などが、患者への適切な治療や確かな回復を犠牲にすることなく、平均在院日数を短くする方策を考えることにしたのです。まず、出来ることと出来ないこと、障害になっているものは何かを調べることから始め、その上で様々なデータに照らし合わせて試行できることを探っていきました。

タスクフォースのメンバーの中に、女性の看護補助員がいました。彼女はメンバーの中で最も若く、仕事に就いてまだ日が浅く、経験も十分になかったのですが、ふとある疑問を呈しました。

話し合いの中で、「金庫はどうなんでしょう?」と彼女は言いました。「それがどうしたの?」と他のみんなが聞き返すと、「えっと、患者さんが入院すると貴重品を金庫に預かりますよね?」

「だから?」とみんな怪訝そうに応えると、「その…、看護師長だけが金庫の番号を知っていて…。でも師長は月曜から金曜の昼間しか働いていないんですよね」

それを聞いていた私は信じられませんでした。しかし、そんな驚きを隠して丁重に聞いてみました。「そうすると、金庫に預かっている貴重品を返さないと患者さんは退院できないということですか?」

その看護補助員は頷いていましたが、他のメンバーは首を竦めながらお互いの顔色を窺っていました。私は続けて聞きました。「要するに、患者さんが金曜日の夜に退院できる状態でも、月曜日の朝まで待たなければならないということですか?」

そうして初めて、そこにいたメンバー全員が、明らかにきまり悪そうにして、頷いたのです。

そうしたことから、週末勤務のスタッフに金庫の番号を教えることで、私たちはいとも簡単に平均在院日数の削減という目標を達成することが出来たのです。

これは本当に極端な例で、これほど簡単に“果実”を得られることは私の今までの経験からいってもほとんどありません(類例は多数ありますが…)。しかし、このエピソードは従業員が「他にもっといい方法がないのだろうか?」という素朴な疑問や気付きを会社が封殺してしまっている典型的な例ではないでしょうか。タスクフォースが結成されてすぐに、組織のいわゆる最下層にいる人が、経営の効率化に大きく貢献したのです。

そうした事例を通して、私は次のような疑問が湧いてきました。

“なぜその看護補助員はもっと早く疑問を呈することをしなかったのか?”

“なぜ彼女だけがこんな簡単な誰にでもわかるような改善のポイントに気付いたのか?”

私は少し考えてみてその答えが分かりました。

彼女は今まで一度も助言を求められたことがなかったので、問題を提起する機会がなかったのです。そして、どんないかなる問題についても話すことが許される権限を与えられたからです。

会社組織が機能不全に陥る兆候として、社員の停滞感や意欲低下があります。そうなると彼らには日々の業務が耐え難いものになります。停滞感や意欲低下には何らかの原因があるはずです。この原因を突き詰めると必ず直さなければいけない点が浮かび上がります。しかし、却ってそのことがより一層フラストレーションをため込むことにつながるかもしれません。社員が上司の決定に異を唱えることが出来ないような場合はどうでしょうか。考えてもみてください。直さなければいけない点に気付いていながら、言い出せない気持ちをずっと堪えていたらどんなにフラストレーションが溜まることでしょう。

常に自由闊達な意見交換ができる雰囲気を作り出すには、かなり特殊な企業文化が必要かもしれません。実際、トップが従業員に職種の垣根を越え、経験や知識そして地位や身分を問わず、自由な意見を奨励していることは本当に稀でしょう。

イノベーションを生み出すには、日々忙しく仕事をしている従業員の情熱に期待して、「どんなことが可能だろうか?」と単純に質問を投げかけるだけでは不十分です。古臭い官僚的な体質を取り除き、目に見える具体的なサポートを約束して現状を打破する努力を本気で奨励することが必要です。

イノベーションを引き起こす特効薬があって、それが次世代のロケット技術を生み出しているなんてことは現実にはありません。特効薬なんてものはなく、小さな気付きや何気ない疑問を追及していくことの積み重ねがイノベーションの種になるのです。

イノベーションは何も会社の上層部が責任を負うものでもなければ、タスクフォースや戦略部門が担うものでもありません。組織に属する誰もが参加すべきことです。イノベーションには個々の社員のちょっとしたアイデアが元になることがあります。だとすれば、社員にアイデアを共有する権限を正式に与えることです。アイデアと権限をうまく活かすことができれば、イノベーションは結局のところ「すぐ近くにその種がある」という事実に気付くことでしょう。

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