優秀な社員がサボるのを防ぐ3つの方法
ショーン・スピアモン, Kotter International コンサルタント(翻訳:島田亮司)
米国の法人向け研修会社Leadership IQの調査によると実に42%もの会社が以下の状況にあるといいます。
「優秀な社員ほど仕事に熱心ではなくサボりがちである一方、仕事に熱心な社員ほど生産性が低い。そして彼らは生産性が低いにも関わらず自分では素晴らしい仕事をしていると思っている」
「優秀だが仕事に熱心ではない社員」と「熱心だが生産性が低い社員」
経営者やマネージメント職に就かれている読者の方はとても気になる調査結果ではないでしょうか。もし自分たちの会社がその42%に入っていたらどうしたらよいかと。どのようにすれば優秀な社員をサボらせずにより仕事に従事させることができるのか。そして生産性の低い社員のパフォーマンスを上げるためにはどうすればよいのか。みなさんならどちらから取り組みますか?
その前に、みなさんの会社の企業文化がそうした状況を作り出してしまってはいないか確認することが必要です。
次のように考えてみましょう。生産性の低い社員が自分ではきちんと仕事に従事している、自分では仕事のやり方を心得ていると信じている。しかし、実際にはクビにならないギリギリの仕事しかしていないとしましょう。映画『Office Space』(米国で1999年に公開された会社のオフィスを舞台にしたコメディ映画)に出てくるピーター・ギボンズ(映画の登場人物でうだつの上がらない若手社員)を想像してみれば分かりやすいかもしれません。
もし最低限の成果しか出していないことに誰も何の反応も示さなければ、その社員はそれ以上のことはしないでしょう。そしてそうした社員を作り出してしまう会社の文化を知っている優秀な社員は「必要以上の仕事」はしません。彼らは黙っていても昇給やボーナスを獲得できるかもしれません。しかし、新しいアイデアを提案し事業を発展させることに積極的ではないでしょう。そうすれば自分達の仕事が増えて自らの首を絞めてしまうことを知っているからです。
とどのつまり、全てリーダーシップの欠如に起因しているのです。生産性の低い社員に面と向かってきちんと話しをする。そしてやる気を鼓舞しパフォーマンスを向上させることを誰もしてこなかったのです。また、新しく革新的なアイデアを会社として奨励することもなく、社員のアイデアを実現するために十分なリソースを提供することを誰もしてこなかったのです。
もしあなたの会社がその42%に入っていると思ったら、社内を見渡してください。リーダーシップを発揮している人がいるでしょうか。そしてそのリーダーシップが毎日活かされているでしょうか。もしそうでないとすれば、解決方法は割と簡単かもしれません。
さて、十分に活かされていない「サボりがちな優秀な社員」と「生産性が低いが熱心な社員」を何とかしなくてはいけません。どちらの改革を優先すべきでしょうか。
映画『Office Space』(邦訳『リストラ・マン』)では社員それぞれの能力を精査しグループに分け、生産性が低い社員に細々とした理不尽な要求を突き付けますが、あるグループを活かすために他のグループを犠牲にするようなやり方はうまくいきません。こうした社員の選り分けは本末転倒であり本質的な問題解決にはならないのです。別の言い方をすれば、優秀な社員を活かしてそうでない社員はそのままでいいのでしょうか?理想的には、全ての社員を生産性の高いグループに入れるか、少なくとも入れるために必要な対策を取ることが重要ではないでしょうか。
次のエピソードは実際にあった話です。ある大きなIT企業に訪問していた私のクライアントは、別の訪問者が受付嬢に話しているのを見かけました。訪問者は少し鼻にかけた物言いで、「あなたはここで一体どんな仕事をしているのですか?」と尋ねました。彼女は受付で行われる典型的な事務処理のことを話すと思いきや、次のような機知に富む素晴らしい回答をしたのです。
「会社にとって何千億円もの売上につながる重要な会議や打ち合わせがスムーズに行われるようにアシストすることが私の責任です。また、あなたのようなお客様を弊社の適切な部署、適切な人物につなげることで、リーディングカンパニーとしての弊社の市場価値を保つことを常に心がけています」
彼女は具体的な業務表を見て「電話応対やネームタグを作ったりしています」とだけ答えることもできたでしょう。
彼女の答えは普通では考えつかない内容かもしれません。しかしあなたが経営者であれば、会社の全ての部署で働く人たちが彼女と同じような姿勢で業務に取り組むことを望んでいるのではないでしょうか。
では、先の受付嬢のようなマインドを持った社員で溢れるような組織をどうすれば作り上げることができるでしょうか。ここに3つの方法を紹介します。
経営理念を内在化させる
まず、埃をかぶっている会社の経営理念に回帰し、必要であればより分かりやすく解釈し直すことです。
ここで読者のみなさんに宿題です。明日会社に出勤したら5人の同僚に会社のビジョン・ステートメント(経営理念等)を一言一句暗唱できるか尋ねてみてください。私の予想では、5人中1人がその一部を言えるか言えないかぐらいではないでしょうか。
理想を掲げ、激励の言葉で溢れる会社のビジョンを内在化している社員はほとんどいないのではないでしょうか。内在化できていないからこそ、日々の仕事とビジョン・ステートメントがどうつながっているのかきちんとした認識が持てず、ステートメントの実現につながる多くの具体的な機会を見落としてしまっているのです。経営者や管理職にある人は、率先してそうした機会をきちんと認知し、社員に理解できる表現で伝え、さらに実行可能なものにお膳立てすることが重要です。
戦略上重要なことは何で、それを実現するために日々の仕事にどう取り組んでいけばいいのか、社員一人ひとりが理解できるようになってほしい。例の受付嬢のような姿勢を自分の社員にも持ってもらいたいと考えるのであれば、彼らにビジョン・ステートメントを理解させ、自分のものにしてもらうことが必要です。
権限を与えて導く
2つ目に、権限を与えるよりは導くことです。エンパワーメント(権限委譲)は21世紀に入ってから最も乱用された語彙の一つでしょう。多くの人は、簡単な解決策としてこの言葉を安易に使ってきました。「君に斯々云々の権限を与える」と上司が部下に言います。しかしそれだけでは混乱を招いてしまいます。
部下に権限を与えることは指導者としての責任を放棄することとは違います。方向を示し、人員を配置し、行動を促す手助けをする必要があります。権限を委譲された後も、部下はあなたからのバックアップを常に求めています。建設的なフィードバックを期待し、成功へ導いてくれることを望んでいるのです。みな「いい仕事」をしたいのです。たとえ耳障りでも時宜を得た適切なフィードバックは結果的にいい仕事につながります。
さらに言えば、起こりうる障壁を予想し取り除いてくれることを上司に期待しています。部下の仕事に関わるべきか迷ったときは、リーダーシップとは「コミュニケーションとサポートの運動」であることを思い出してください。運動が少ないことが良いことだとは言えないのです。
感謝を表明する
3つ目に、陸軍参謀総長、NATO軍最高司令官を歴任したアイゼンハワー元大統領の「魔法の言葉」を思い出してください。「リーダーシップとはあなたがしたいことを他の人にもしたいと思わせその人にやってもらう芸能です」
全くその通りだと思います。こうした芸能を実践し一度でも成功してきた指導者は、部下への感謝を忘れません。卓越した指導者は部下と心を通わすことを常に意識して実践しています。
金銭的なインセンティブや役得は確かに効果がありますが、長続きせず一時的なものになりがちです。結局のところ、優秀な社員でも(あるいは優秀な社員だからこそ)、自分の努力が認められ感謝されたいと思っているのです。
自社の商品やサービスを絶えず改善しマーケットシェアを獲得し市場優位性を保つことはどの会社にとっても大切なことです。しかし同時に部下に感謝することを様々な手段で実行してください。できれば今までの10倍。効果はてきめんに表れるでしょう。
私のクライアントの会社にはこの「感謝」の手法をうまく取り入れたことで、世界で最も働きやすい会社の一社に選ばれました。
もしあなたの会社にピーター・ギボンズが1人か2人いたとしても、彼らは怠けているのではないのです。漫然と仕事をしているだけです。指導者としてのあなたのチャレンジは、まず散在している点と点を結び壮大な計画を青写真として提示して感心を持ってもらうことです。
「言葉では簡単。実行は難しい」って? 確かに。