ブランドを刷新するための5つのステップ

ブランドを刷新するための5つのステップ

キャシー・ガーシュ(コッター・インターナショナル所属の経営コンサルタント)

(翻訳:島田亮司)

昨今、顧客情報を流出させた事件が世間の耳目を集めている。米国でも大手流通企業の情報漏洩が大きな話題になった。ターゲット(TARGET)は売上高7百億ドルを超える米国有数の小売業者だが、同社発行のアニュアルレポートによると、2013年の年末、マルウェアにより約4千万件のカード情報、また7千万件に及ぶ個人情報をハッキングされたという。その結果、トップの辞任に留まらず、売上高が大幅に落ち込み、ブランドイメージも大きく傷ついた。現在は、新任のCEOの元で業績の立て直しを急いでいるが、キャシー・ガーシュは失った信頼を回復し社内の士気を高めるために5つのステップを提言する。

2014年はターゲットにとって激動の一年でした。2013年のクリスマスシーズンに発生した顧客の個人情報漏洩による売上の激減、ブランドの失墜、顧客離れは、毎年成長を重ねてきたターゲットに大きな衝撃を与えました。2014年度の売上は2013年度よりも悪くなりました。当時のCEO、グレッグ・スタインハフェルは突然失脚させられ、目下、ターゲットは新しいリーダーを探しています。活気溢れるスタッフと共にかつての輝きを取戻し、業績を回復し、進化し続けるために新しい牽引役を求めています。

昔に戻るべきかどうかという議論はあるにせよ、「早い」「楽しい」「フレンドリー」を企業文化として育み、20年以上に渡って会社を率いてきたカリスマ経営者ロバート・ウルリッチ(2009年に退任)の時代を再現するのは容易なことではないでしょう。企業文化は経営トップの意向に大きく左右されます。ターゲットの文化はウルリッチによって形作られてきました。しかし、企業文化にも「停滞」という病があります。ある方法によってある程度の業績が上がっていたら、あまり改革に熱心にならず、いままでのやり方を踏襲し変えようとはしなくなります。ウルリッチが築き上げた企業文化のポジティブな側面は是非とも復活すべきでしょう。しかし、それだけでは不十分です。今後、ターゲットのCEOを担う人物には将来の成功を見据えて、企業文化を作り変える必要もあるでしょう。

では、ターゲットのように大きな問題が起こった後、組織が停滞し、進むべき方向性が曖昧になってしまった、あるいは舵を取る人が不在になり、企業文化が曖昧になってしまった場合、どのように立て直しを進めていけばいいのでしょうか。

ステップ1:方向付けをする

ビジョンを外部と共有する

ターゲットのような大きな問題が起こらなくても、社員が決まりきった日々の業務を繰り返しているだけで、会社のビジョンや進むべき道を意識しなくなり、社内に停滞感が漂っている場合にはどうすればいいのでしょうか。まずやらなければいけないことは、あるべき将来のはっきりした青写真を掲げ、それに向かって組織全体を糾合することです。青写真は社員を鼓舞し、やる気を引き出し、実現したいと思わせるものでなければいけません。特にターゲットが最近行ったように、多くの新しいメンバーを経営陣に迎えるようなときにはこのプロセスが特に重要です。古株の経営陣がかつての輝いていた社風を取り戻したいと思うだけでは不十分です。次の2点が必要です。

①来たるべき大きなチャンスを魅力的に描くこと。

②失われてしまった過去の掛け替えのない社風がこのチャンスをモノにするのにいかに役立つかを説明すること。

ターゲットを例にすれば、迅速で、革新的な社風を取り戻すことになります。

ステップ2:トップのリーダーシップ

ビジョンを外部と共有する

ステップ一の「方向付けをする」ことのために重要なのは、そこに向かって組織全体を糾合するリーダーの役割です。ターゲットのケースでいえば、次にCEOになる人に大きな責任があります。つまり、新しいビジョンや方向付けに賛同してもらうためには、トップのリーダーシップにかかっているのです。短期的ニーズと、長期的ニーズのバランスをとり変革を指揮し、組織に活力を与えるビジョナリーが必要です。ターゲットの現経営陣や上級管理職の人たちの判断になると思いますが、CEOになる人には経験やスキルだけでなく、会社の目指すべき方向に共感し、そのための組織改革に積極的であるかどうかもきちんと見極めなければなりません。明確なビジョンと情熱を持った新しいリーダーでなければ、現経営陣と力を合わせてブランド力の低下に歯止めをかけ、動きの早い小売業界におけるターゲットの地位を将来に渡って強固なものにすることはできないでしょう。

ステップ3:率先垂範と自由闊達

ビジョンを外部と共有する

ステップ二の「トップのリーダーシップ」を本物にするには、リーダーの率先垂範が大切です。ビジョンを示すだけで組織が変わることはありません。CEOを含めた経営陣が、掲げたビジョンにそった行動を率先することです。真に変革のうねりを起こすためにはまず上層部が行動で示さなければいけません。さらにその行動は真に迫っていて、見ている人の心に訴えるものでなければいけません。そうでなければ他の社員を動かすことはできないでしょう。また、社員一人ひとりがそのビジョンを率先して体現できるように奨励することが必要です。上からの管理や締め付けではなく、一人ひとりがリーダーシップを発揮できるように組織全体に自由闊達な環境を作ることも欠かせません。

ターゲットの例でいえば、かつてマーケットから注目された理由の一つに、トレンドを先取りした革新的、且つユニークな品ぞろえが挙げられます。一風変わった独特の商品もありましたが、これらの商品の選定は仕入れ担当者が本部から過度の指導を受けずに自由にセレクションすることができました。しかし最近になって、コストカットやグローバル視点での仕入れの効率化を図った結果、この自由度が著しく低下しました。この自主独立的なマインドを復活させることがターゲットにとって組織の活性化や目標への求心力につながる可能性があります。

ステップ4:ビジョンを外部と共有する

ビジョンを外部と共有する

ステップ1から3にかけては、組織の内部に関することでしたが、達成すべきビジョンは必ずしも内部に留めておく必要はありません。ターゲットのように一度傷ついてしまったブランドを立て直すためには、ビジョンを内部だけでなく、外部、つまり顧客とも共有することも必要です。お得意先や長年の顧客は今までの信頼が高ければ高いほど、今回の件で失望しています。彼らはこの会社の先行きを心配し、どのように変化していくのか、とても注目しています。近年、ターゲットの商品群は利益やマージンの追及にばかり焦点が当てられ、消費者のトレンドや市場の要求に応えようとしていませんでした。結果、従来の顧客はクリエイティブな要素がなくなってしまったターゲットに失望していたのです。さらに、今回の情報漏洩で信用が裏切られました。ターゲットのブランドを修復するにはある程度の時間が掛かりますが、顧客と積極的にコミュニケーションを取り、社内のポジティブな変革を伝えていかなければなりません。

顧客との関係を再構築するためには、コミュニケーションが重要です。ターゲットがどこで躓き、どのようにそのミスを挽回し、信用を取り戻そうとしているのか、顧客が納得する将来の野心的なビジョンを示す必要があります。ターゲットの主要な顧客は裕福ですが価格に敏感な消費者です。その大事な顧客が満足する内容でなければなりません。彼らにこれからのターゲットのビジョンを理解してもらう必要があります。将来の確かなビジョンを正直に自信を持って伝えることができれば、関係の修復が進むはずです。

ステップ5:変化を拒まず受け入れる

変化を拒まず受け入れる

自由闊達な環境と似ていますが、目標に向かって日々変化に対応したり、さらに進んで変化を先導したりできるような社内環境にすることが必要です。ステップ一から四までを確実に実行するためには、変化を需要する環境が必要です。ターゲットはここ数年、管理主義に陥っていました。社員が増え肥大化した融通の利かない非能率な縦組織になっていました。情報漏洩事件の後、行き場のないネガティブな切迫性が社内に漂い、多くの社員が戦々恐々としていました。社員一人ひとりが経営者のつもりで率先して仕事に取組むことが許され、社内に活気が溢れ、良い結果を生み出していたかつての変化を受容する雰囲気は消え失せていました。経営者のつもりで率先して仕事に取り組むことは、変化を拒むのではなく受け入れる前提で仕事を遂行することです。こうしたことはターゲットが是非復活すべきことでしょう。

フィラデルフィア近郊にオープンしたターゲットの店舗

既に、ターゲットは正しい方向に進んでいるように見えます。ジョン・マリガンCEO代理の下、新しいCEOを待たずに内部の改革が既に始まっています。前CEOが去った後、間髪入れずに経営陣を刷新、新しい経営陣の下、組織の改革を進め、社員の自主性を重んじる風土に生まれ変わりつつあります。現在はコロナ禍にあり業績は極めて良好で、株価も2014年の56ドル/株から214ドルへと4倍近い値がついています。

新しいアイデアが生まれる素地を整える。顧客に、そして株主にとってもこうした変革が継続されることが望ましいのです。

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