NVC(非暴力的コミュニケーション)のやり方

先日、人間関係において信頼を取り戻す方法について述べました。 相手を信用しなくなるということは、誤解を生じさせるとても大きな原因になります。 そうした誤解を生じてしまう場面というのは数多くあります。 初対面の時は特にお互いのことを信頼し合っていないので誤解が生じやすいと思います。

誤解が生じてしまったらどうすればいいでしょうか。買い物をしてレジでスタッフとやり取りをするときや、病院での窓口でのやり取り、など短時間で済むような場合は多少誤解が生じてしまったとしても、その場をしのげば済む話でその関係性が一瞬で終わってしまうような場合、あえて相手の本当の意図を理解したりする必要はないでしょう。Google の口コミで悪い評判がつくのも、そうしたちょっとした誤解が原因かもしれません。 

しかしこれからずっと一緒に仕事をするとか、 何かのプロジェクトで一緒になりある程度の時間を密にコミュニケーションを取って行かなければいけないなど、 人間関係が長く続くようであればお互いの誤解を解消する必要があるでしょう。 これから一緒に何かを協力して作り上げていくということであればなおさらこうした誤解を解く必要があります。

そこで誤解を解く方法として注目されているものがあります。 アメリカの臨床心理学者マーシャル・B・ローゼンバーグ博士によって提唱されたNVC(Non-Violent Communication:非暴力的コミュニケーション)と呼ばれるものです。

日本経済新聞社から翻訳本も出ていますがここではかいつまんでそのやり方について紹介したいと思います。 

NVC(非暴力的コミュニケーション)のやり方:四つのステップ

このコミュニケーションのやり方についてまず大前提として、自分の主観を取り除くということがあります。 論破王のひろゆきが「それってあなたの感想ですよね」と言って論破する相手の主観的な印象であるということを指摘することがあります。 これはまさに主観で物を言っている、つまり事実に基づかないことであるから相手の話に信憑性がないということです。 

①観察(observation)

「相手は怒っている」「怒っている原因は多分これだ」「原因は私のせいではない」「相手に非があるに違いない」このように想像することがあると思います。しかしそもそも相手が本当に怒ってるのかどうか、それはあなたの感想つまり主観的な印象かもしれません。まず本当に相手が怒ってるかどうかをきちんと観察する必要があります。 その上でなぜ起こっているのかその原因について相手にきちんと聞かなければいけません。

ローゼンバーグ博士が書いた本によると、「評価を交えずに見たり、聞いたり、記憶したり、想像したり」することが必要であると述べています。 ここで出てくる想像するというのは、「こういうことではありませんか?」と相手に質問して確認する意味が込められています。そうした質問によって相手が抱いてしまった気持ちの原因について探求することができます。

②感情(feeling)

相手の気持ちの原因がわかったところで、その気持ちについてもう少し正確に把握する必要があります。単純に怒ってるだけなのか、あるいは悲しみと同時に怒っているか、悲しみと後悔そして怒りといった様々な感情が溢れかえっているのか、その辺の気持ちをもう少し正確に読み取る必要があります。

「あなたは・・・と感じている」 

ということがはっきりとわかるようにしましょう。 

③必要としていること(needs)

相手がそうした感情を抱くには何らかの価値観が背景にあります。もう少し有り体の言い方をすれば、そうした気持ちや感情を抱いているのは相手が何かを必要としているからです。どんな価値を重んじているからなのでしょうか。

「なぜならあなたは・・・を必要としているから」

「なぜならあなたは・・・を重んじているから」

こうしたことをきちんと把握する必要があります。その上で相手の人生を豊かにするための価値観や欲求を共感をもって受け止めることが必要です。 

④要求(request)

①、②、③のプロセスを通して相手の状況がわかったことで聞いている人に対してどのような要求があるのかどのようなことを望んでいるのかそれを明らかにするのがこの最後の「要求」のフェーズです。 

相手が望んでいる具体的な行動は何でしょうか。

「あなたは・・・ をして欲しいのですか?」 

相手に共感を提供する場合はこの4番目のプロセスを省くこともあるとしています。相手は解決策を求めているのではなく、単純に話を聞いてもらいたいだけということもありますよね。 そのような場合は要求は不要です。

ただし具体的な例がないとイメージできないと思うので、ここで、ローゼンバーグ博士が具体的に遭遇した場面について紹介したいと思います。 本書の抜粋になりますが以下をご覧ください。

具体的な例:『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』からの抜粋

「人殺し! 暗殺者! 子ども殺し!」

エルサレムのアイシャ難民キャンプのモスクでは、およそ170名のパレスチナ人のイスラム教徒の男性を対象にNVCのプレゼンテーションをした。 当時、アメリカ人は決して好意的に迎えられなかった。 話しているうちに、聴衆のあいだに低いざわめきが広がっていくのを感じた。「あなたがアメリカ人だと彼らはささやき合っているんです」と通訳が教えてくれた。そのとき、 なかのひとりがさっと立ち上がった。 わたしを正面から声のかぎりに「人殺し!」と叫んだ。すぐに十数人の声がそれに続いた「殺者」「子ども殺し!」「人殺し!」 幸いにも、わたしはその感じているのか、何を必要としているのかに意識を集 中することができた。 心当たりがいくつかあった。難民キャンプに向かう途中、前夜に撃ち 込まれたというガス弾の破片を見ていた弾の残骸から、はっきりと「メイド・イン・ USA」の文字が読み取れた。イスラエルに催涙ガスなどの武器を提供するアメリカに対し、 難民たちは並々ならぬ怒りを抱いていたにちがいない。 わたしは人殺しと叫んだその男性に呼びかけてみた。

博士:「あなたが思っているのは、わたしの国の政府があなたの必要とするものに資金を使っていないからですか」 

自分が正しいのかどうか、わからなかった。しかし、重要なのは、彼の感情を知り、彼が必要としていることを理解しようとする真摯さである。

「そのとおり、わたしは怒っている! われわれが催涙ガスを必要としているとでも 思うのかね。 われわれが必要としているのは下であって、あんたたちがつくった ガスではない。われわれは家を必要としている。 自分たちの国が必要なんだ!」

博士:「わたしだからあなたはしているんですね。いまよりも暮らしをよくすること。 政治的独立を獲得することへのを必要としているのですね?」

「ここで年間、子どもたちや家族と暮らしてきた日々がどんなものか、わかりますか。われわれがどんな思いをしてきたのか、少しでも想像がつきますか?」

博士:「あなたは深く絶望しているようだ。 こういう状況で生きることがどんなことなのか、わたしを含め、誰もほんとうには理解できないと考えているのですね。 わたしはあなたの言葉を正しく理解しているでしょうか」 

「理解したいというのですか。 あなたに子どもはいますが、その子たちは学校に通っ ていますか。 その学校に校庭はありますか。 わたしの息子は病気だ。息子が通う学校の教室には本すらない! 本がない学校など見たことありますか」

博士:「ここで子育てするのは、とてもつらいということですね。 子どもをもつ親なら誰でも望むことを、あなたはわたしに知ってほしいのですね。 よい教育、健全な環境で遊んだり成長したりする機会を...」

 「そのとおりだ。 基本的なことばかりです。 人権です。 アメリカ人はそう表現しますね? あなたたちのせいで、ここの人権がどんなことになっているのか、もっと多くのアメリカ人が来て、その目で確かめればいい!」 

博士:「もっと多くのアメリカ人に、ここの人々が抱える苦しみに気づいてもらいたい。アメリカの政治的な行為がどんな結果をもたらしたのか、もっと深く見てほしい。そう望んでいるのですね?」

対話はそれからも続き、彼はさらに30分ちかくにわたり自分の苦痛を述べ、わたしはその 主張の背後にある感情が必要としているものに意識を集中した。 賛成も反論もしなかった。ただ彼の言葉を受けとめた。攻撃として受けとめるのではなく、彼の心の奥底からの訴 として、彼には手の打ちようのない状況をわたしに伝えようとする言葉として受けとめた。 

その男性は自分の言い分が理解されたと感じると、わたしが難民キャンプに来た目的につ いて耳を傾けてくれた。 わたしを人殺しと呼んだ人物は、1時間後、わたしを自宅に招待し、 ラマダンの夕食をともにとろうと誘ってくれた。

傾聴する姿勢の大事さ

ローゼンバーグ博士が実践していることはまさに傾聴ということではないでしょうか。 相手の気持ちを客観的な立場で正確に理解をする。理解をする過程で想像力を働かせて適切な質問を投げかける。まずは相手に寄り添う姿勢を示すことが大切でしょう。

「自分や他人の行動の原動力となる欲求を理解すれば、敵はいなくなる」(ローゼンバーグ博士)

ただしこのNVCのやり方の欠点は時間のかかることです。 短時間の関係で済むような、タクシーの運転手とお客さんとの関係性など、必ずしもこの方法を取り入れる必要がないことがほとんどでしょう。

ただし職場の人間関係だったり、家族との関係性、また友人との関係性、はたまたこのローゼンバーグ博士のようにあるプロジェクトにおいて対象となる人との関係性などをうまく進めていく上で、このNVCのやり方は一つの有益な方法として取り入れてみてもいいかもしれません。

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