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ビジネスの戦略を実行に移すための秘訣

ビジネスの戦略を実行に移すための秘訣

By ランディー・オッティンガー

新しく立てた戦略がうまくいかない理由はなんでしょうか?コッター・インターナショナルのコンサルタントで同僚のランディー・オッティンガーが、戦略を実行に移すにあたり、多くの企業に欠けている要素についてお話します。この要素の有無が戦略の成果を左右します。

最近出版された『ハーバード・ビジネス・レビュー』の特集で、ジョン・コッターはビジネスチャンスを勝ち取るための戦略を迅速且つ緻密に実行することができた新しいタイプの企業について書いています。実行の早さと緻密さは企業経営にとってとても大切なことですが、実際には多くの企業で欠けています。その原因はなんでしょうか?二つの要素が抜けているからではないでしょうか。まず一つ目の要素を見てみましょう。

ついこの間、40社ほどの経営幹部の方に講義をしました。彼らは業界も違えば、国も違う、実に多様な方々です。その講義で彼らにグループワークに取り組んでもらいました。スピードと実行力のある理想的な組織はどんなものか、話し合ってデザインしてもらったのです。理想的な組織とはどのような形態で、どのような雰囲気を持っているのか?そして、どのような意思決定のプロセスを備えているのか?私は彼らからアイデアや提案が尽きるまで聞き続けました。

彼らが考えた理想的な組織とは、明確な戦略があり、そこで働く人々が危機意識を持ち、共通の目標に向かって進んでいること、そして、実行段階において各部署のマネジメントがスムーズに運んでいることでした。それは新しい戦略を実行し成功している典型的な組織で、誰もが考え付くことです。

そこで、私は聞きました。「何か足りないものはありませんか?」しかしみな「何もありません」と応えます。私は質問を変えました。「もう一度、聞きます。このモデルは新しいビジネスチャンスをつかみ、新しい戦略を実行に移し、変化に対応する組織としてどの程度有効でしょうか?」

彼らは頭を掻いて考えますが、統計上三割の会社しか新しい戦略がうまくいかないと答えました。逆に言えば、七割の会社は新しい戦略に失敗しているということです。そこでもう一度聞きました、「では何が足りないのでしょうか?」と。

私たちが調査して分かったことは、実はジョン・コッターはずっと前に気付いていたことなのですが、スピードと緻密さを持って戦略を実行するためには、「緊急プロセス」が必要なのです。緊急プロセスとは実際に緊急性を生み出すプロセスのことを指します。このプロセスは戦略の立案や戦略を実行するプロセスと同じぐらい重要なことです。

経営者の方に緊急プロセスについて話しをすると、決まって「緊急プロセスってなんですか?」とか「ビジネススクールでは聞いたことがありません」という答えが返ってきます。緊急プロセスを簡単に定義すると、「事業部、局、実働部隊、あるいは大きな組織において、そこで働く従業員の大多数が戦略の緊急性を感じ、その実行に寄与、関与すること。さらに繰り返し行うことができるプロセスである」ということになります。このプロセスには以下のものが含まれます。

・市場にあるビジネスチャンスを上層部がきちんと認識すること。
・緊急チームの結成。
・(戦略に)寄与、関与し、従業員に緊急性を持たせること。
・自発的に寄与してくれる従業員を組織横断的に集めること。
・その組織で働く人の半分以上が緊急性を認識すること。

間違ってはいけないのは、この緊急プロセスはコミュニケーションプランではありません。コミュニケーションプランは、従業員にある情報を伝達し、気付きを与えるだけの一方通行なアクションにすぎません。この緊急プロセスは、新しいチャレンジに寄与、関与してもらえる自発的な従業員が現れるような仕組みでなければなりません。

では、組織の半分以上の従業員が自発的に寄与してくれることになったとしましょう。彼らのやる気を生産性にどのように結び付ければいいでしょうか?ここで、戦略を実行する迅速さと持続的な緻密さに必要な二つ目の要素が出てきます。

二つ目の要素を説明するために、モバイル機器を巡る企業間の競争に見られたある重要な点について触れたいと思います。私は20年もの間、モバイル市場に関わる仕事をしてきました。1980年、IBMが初めてホームバンキングやネットワークを使ったショッピングサービスの検討を始め、AT&Tに買収された旧マッコウ・セルラーが国内で初めて携帯電話サービスを開始しました。その時から今日に至るまで、私はモバイル市場における熾烈な戦いを興味深く観察してきました。

そして、2007年に戦略を実行する迅速さと持続的な緻密さについてあることを学びました。シリコンバレーの巨人、Appleが初めてiPhoneを発売したときのことです。当時はBlackberryの人気が高く、市場の二割以上を席巻し、アップルより四年も先駆けていました。Appleは優れたデザインと最先端の技術を駆使し、iPhoneを世に出しました。スタイリッシュなフォルムと機能性は、瞬く間に消費者を魅了し、Blackberryは逆にiPhoneを追う立場に置かれてしまいました。

しかしながら、iPhoneの競争優位性はAppleのデザイナーのみが作り上げたのではありません。むしろ、外部の自発的な部隊の力が大きかったのです。何百、何千というディベロッパーがiPhoneの斬新な使い方をアプリの開発を通して提案したのです。App Storeを通して多種多様なアプリが提供され、iPhoneは単なる携帯電話という枠を超えて、様々な用途に使われることで、使い勝手が飛躍的に向上しました。このようなことを短期間に成し遂げるには、Apple一社の力では足りません。App StoreによってiPhoneは緻密さと革新のスピードが与えられ、Blackberryを一気に追い抜いてしまったのです。(このApp StoreのアイデアはGoogleのAndroidにそのまま使われてしまいました。ユーザーにアプリの開発を委ねるだけでなく、製造業者にハードウェアの製作も任せたのです。)

実はどの会社にもApp Storeのような仕組みを作り出すことができるのです。ピラミッド型で階級性の強い組織の中にも、個々の従業員の間にはインフォーマルで横断的なネットワークが必ずあります。このインフォーマルなネットワークをきちんとした組織として構築し、それを活かすことで、革新的なアイデアや解決策を生み出すことができます。ジョン・コッターは、従来の階層制組織の中でインフォーマルなネットワークをうまく活かすことを、「デュアル・オペレーティング・システム」と呼び、最近のハーバード・ビジネス・レビューの記事「アクセラレイト!」で紹介しました。

Appleのデザイナーや技術者が最先端技術を用いてiPhoneを開発したのは、既存の階層制組織の強みでしょう。そうした組織に加えて、App Storeで見られるような、多数の従業員が自発的に参加し、クリエイティブな方策を考えて実行に移すシステムを構築することで、素早く革新を起こすことが可能になります。

このインフォーマルな従業員のネットワークこそ、戦略を実行する迅速さと持続的な緻密さに必要な二つ目の要素です。このようなネットワークの良い点を活かして、戦略的目標の実現を加速させるのです。この二つ目の要素こそ、自発的に協力してくれる従業員が集まった場合、彼らのやる気を生産性にどのように結び付けるか、という前述の問いに対する答えになります。

この二つの要素をどのように具体化するかは、個々の会社によって違ってくるでしょう。しかし、緊急プロセスを通して多くの従業員の自発的なやる気にスイッチを入れ、従来の縦組織に囚われない横断的なネットワークを機能させ、革新に向かって活かすことができれば、売上、利益、競争力、従業員の生産性、そして企業文化に大きな影響を及ぼすことでしょう。

迅速さと緻密さは、変化の激しい時代に、戦略的な優位性を保つために不可欠です。コロナ後の時代を勝ち残る会社はここで描かれているような組織形態に似たようなものを備えているでしょう。

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