人間関係において信頼を取り戻す方法
2020年に世界中に広がった新型コロナウイルス。パンデミックによって私たちの生活は大きく影響を受けました。デジタル化の流れが強まりテレワークが進むなど、変化をもたらす良い影響もありましたが、悪い影響のほうが多かったのではないでしょうか。 経済活動の停滞、医療崩壊など、物理的に悪い影響もあれば、うつ病になる人が増加するなど精神的な悪影響も見逃せません。OECD の調査によるとロックダウンなど厳しい社会制限を課した先進国を中心に、うつ病の患者が2~3倍になったそうです。また、多くの人が自宅で過ごす時間が長くなり、ソーシャルディスタンスを守り、マスクを付けて、なるべく対面での交わりを避ける中、 世の中が「信頼の危機」を迎えていると危惧されています。パンデミックがなぜ「信頼の危機」につながるのでしょうか。
「信頼の危機」は世界的な傾向
「信頼の危機」は、今年2022年1月に行われたオンラインでの「ダボス・アジェンダ2022」でも大きく取り上げられ、世界的なイシューとして注目されました。 パンデミックによってストレスを抱え、イライラし、おこりっぽくなることから、他人に対して不寛容になっている人が増えているというのです。不寛容になるということは、他人の気持ちを慮ったり、相手の立場になって考えることが出来なくなっているということです。その結果、疑心暗鬼に陥り、他人への信頼を失くす傾向にあることから、「信頼の危機」が叫ばれているのです。
互いへの「信頼」がなければ、人々の集まりである社会が進歩するために必要な「協力」は難しくなり、制度への十分な「信頼」がなければ、選挙結果を社会が受け入れなくなり、民主主義そのものが立ち行かなくなります。そしてパンデミック前から問題になっていた、「社会の分断」がより一層進むことになります。 このことは2020年のアメリカ大統領選挙の結果を受け入れない、多くの共和党支持者がいることでも明らかです。
国際的な NGO 組織(More In Common) の調査によると、 以前ほど周りの人を信頼できないとするアメリカ人が74%にも上っています。また63%の人が他人との付き合いは慎重すぎることはないと回答しています。
信頼を取り戻す7つの方法
ではどうすればこの信頼の回復を図ることができるでしょうか。 どのようにすれば他人を信頼できるようになるでしょうか。上述のNGO組織によると7つの方法を紹介しています。
①パーセプションギャップ(思い違い)を認識する
憶測は真実ではないことが多々あります。 「あの人はこんなことを考えているだろう」と決めつけていませんか。実際に本人に聞いて確認せずに、人の気持ちや考え方を想像していませんか。実際には思い違いをしていることが多いのです。例えば上記の NGO 組織の調査によると、アメリカの民主党員は「共和党員の52%は移民について否定的だ」と考えていますが、実際には「共和党員の85%は移民に対して肯定的」なのです。同様に、共和党員は「民主党員の48%は警察官のほとんどは悪い人だという意見に意義を唱えない」だろうと思っていますが、実際には85%の民主党員がそうした意見に同意していないのです。
わたしたちは、人を服装や出身地で判断したり、外国人だからと異質に見たり、根拠もなく想像することがよくあります。また、在宅勤務が広がり、デジタル化が進む中で、対面でのコミュニケーションが減ってきました。文字での会話は誤解を生むことが多くあります。相手の表情がわからず、ネガティブに捉えてしまうことが問題となっています。想像するのは自由ですが、そうだと決めつけることは危険です。
また、差別につながる恐れがあります。2ちゃんねるの開設者でインフルエンサーとしても有名なひろゆき氏はディベートがうまく「論破王ひろゆき」などと呼ばれることがあります。「それってあなたの感想ですよね」という文句が有名で、これもまさに、根拠もない想像だという可能性を相手に諭しているのです。自分の想像は想像として、事実とは別に分けて考える必要があります。他人を信頼できるひとつのきっかけとして、パーセプションギャップの可能性を意識しましょう。人をなるべく色眼鏡で見ないようにすることが大切です。
②市民生活への参加
分断した社会の中で信頼感を高めるには、自分の国や地域、コミュニティーへの帰属意識を高めることから始めるのがよいと言われています。逆に、市民生活への参画の減少が、政府への信頼の低下につながっていることが社会科学の研究で明らかになっています。 何かに所属することは人が社会生活を送る上でとても重要なことです。 家族、会社、 友達のネットワーク、 社会人クラブ、 そして地域のコミュニティーです。 特に全人格的な地域のコミュニティに所属し、 帰属意識を高めることは信頼の向上に寄与すると言われています。
③リーダーとしての誠実さ
人の上に立つ人は誠実さがとても重要です。 もっと具体的に言うと、なにか自分のために、自己の利益のために行動しているのではなく、その下にいる人たちの利益を優先している誠実さです。会社の社長であれば、従業員の利益を考えて仕事をしていることになります。従業員の利益といっても、給料を上げたり福利厚生を充実するだけでなく、快適なオフィス空間を提供したり、社員の仕事の自由度を上げたり、仕事のやりがいを与えたり、成長してキャリアアップの機会を明示することも重要です。社内の権力闘争や政治的な動きをしている社長は信用されません。また尊敬も集められません。
④利害を伝える
他人から信頼を勝ち取るためには、自分の行動が彼らにとってどんな意味があるのかを正確にそして積極的に伝えることです。政治家であれば、自分の政策やアジェンダがどのように社会を良くするか、公約やマニフェストの形で人民に強く訴えかけます。社長もこれからの方針がどう会社の発展につながるのかを話すだけでなく、社員の幸福につながるのかを積極的に語らなければいけません。路上で募金活動をするときも、集めたお金がどのように社会に役立つのか、直接的に役立たなくても、社会を支援する活動はまわりまわって個人個人の生活を豊かにすることにつながります。そうした利害(ベネフィット)を強く訴えることが必要です。
⑤集団的アイデンティティを強調する
対人不信は、相手の動機や考えの不確実性から生じます。この不確実性の根本にあるのは、相手は違う人で、意見や心配事、目標を共有していないだろうという認識です。意見の同意、心配事の共有、共通の目標など、共通点を探ることで信頼を得ることが可能です。同じ大学出身である、郷土が同じである、あるいは海外にいるときは同じ国籍であるということも信頼が生まれるきっかけになります。違いに目を向けるのではなく、共通点をさぐりだし、信頼を作るきっかけにしてみましょう。
⑥異なるグループ(集団)にいる人との交流
「実際に会ってみると印象が変わった」という経験は誰しもあることです。さらに、会うだけでなくじっくり1対1で話をすると意外な面がわかり、評価が変わるということもあります。社会的信頼の再構築は、まず自分たちの集団の外にいる人たちを知ることから始まります。これは、異質と思われる人々と出会い、交流することで初めて可能になります。実際、この接触仮説を支持する科学的証拠は数多く存在します。「私たち」とは異なると認識する人々との交流が増えることで、「彼ら」や彼らが属する一般集団に対する信頼も高まるのです。アウトグループの一員であると考える人々との接触が増えると、それが近所での何気ない出会いであれ、軍隊や平和部隊のような機関であれ、相手に対するより深い、より微妙な理解につながることが分かっています。このことは、前向きな姿勢と暖かい認識を生み、偏見に満ちた考え方を減らし、運命を共有するという考え方に強く同意することにつながります。
⑦平等に接すること
不平等が認識されているか実際に存在するか、どちらにしても、不平等は社会的不信の原因となることは確実です。人は、自分と他者との間に格差があり、不公平だと感じたとき、他者を脅威とみなす傾向が強くなります。ある実験で不平等な状態でゲームを開始し、ある参加者が他の参加者よりも多くの資金を持ち、その資金を他の参加者に開示するという不平等な状態からゲームを開始した結果、ゲームにおける経済の成長はまばらになり、全体的な協力度は低下し、プレイヤー間の不信感が高まりました。
この結果は、全米の地域社会で実証されています。格差が大きい州では、住民の社会的グループ(読書会、奉仕団体など)への参加が少ないそうです。スタート地点でみんなが平等で、結果的に努力した人が報われる社会であれば、ある程度の格差が生まれることは誰もが納得できます。しかし、スタート地点が平等でないと、不信感が生まれ、全体的な成長が阻害されることになるのです。
以上、信頼を取り戻すための7つの方法を紹介しました。この方法は、いろんな人間関係で使うことができます。職場の人間関係、家族との関係、友人関係、近所づきあい、スポーツクラブなどのコミュニティー活動における関係など、使えそうな方法があれば実践してみましょう。特に①のパーセプションギャップはどんな関係性においても使えます。一人ひとりが信頼を取り戻す行動を取ることで社会が少しずつ正常な状態に戻っていくことでしょう。
信頼を取り戻すコミュニケーションの手段としてNVC(非暴力的コミュニケーション)というものがあります。興味がる人は参考にしてみてください。
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