カンボジアの看板に絵が多い理由

カンボジアでは1970年代後半に国土を支配したポルポト派が、カンボジアを 「最高の平等社会である原始共産制(石器時代)に戻す」という方針を立て、 社会のあらゆる文明基盤を破壊しました。この方針は文明社会を体現している人間、つまりインテリを皆殺しにするというかたちで徹底され、文字が読み書きできる人間は真っ先に虐殺の対象となりました。この影響でカンボジアでの識字率は極端なまでに落ち込みました。 ポルポト派が中央権力から追い出されたあとも、長く続いた内戦や政治的混乱などで若い世代への教育が進まない状況が続き、今でも識字率は低いままとなっています。

床屋さんの看板

先日の教育省の発表では、90%を超えたとしていますが、実際はもっと低いのではないかとする意見もあります。 実際、選挙(比例代表制)の投票用紙にはそれぞれの政党のマークが記されており、そのマークに印を付けて投票します。

単純に政党名を書く投票方法にしてしまうと多くの国民が政党名を書くことができずに投票できなくなる恐れがあるからです。またカンボジアでは、日本における旧仮名遣い (「蝶々」を 「てふてふ」と書く)のように実際の発音と文字の表記がずれることもあり、こうした例外までも正しく表記、発音できる人はまれだともいわれています。

こうした状況なので、都市部の個人商店ではお店の看板に屋号や商品名、サービス内容を文字で書くだけでなく、絵で表しているものが多数見受けられます。とりわけ、売っているものが目に見える商品ではなくサービスであるお店の看板には絵入りのものが多くなっています。例えば、歯と歯茎の絵は歯医者さんを表し、マイクをもって 歌っている人のシルエットはカラオケ店、パリっとした男性の顔は男性用の理髪店、フェイスパックをしている女性の看板は美容院、バイクの看板はバイク修理店、交通標識がたくさん書いてある看板は自動車教習所、という具合です。最近では外国人や一部の富裕層を対象としたお店も増えてきて、文字だけの看板も見受けられますが、絵入りの看板もいまだに健在です。

日本でも浅草の伝法院通りを歩いているとお店のシャッターに文字だけでなく、絵が描かれているものがあります。これも文字がわからない人のためだと言われています。日本人の識字率が向上したのも明治時代以降。江戸時代は一部の人しか文字が読めなかったそうです。

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