ベンメリアは『天空の城ラピュタ』のモデルではない

ベンメリア遺跡はアンコールワット遺跡群の一つで、近郊にあるシェムリアップ市街から車で2時間ほどのところにあるヒンドゥー教の寺院です。遺跡の損傷が激しく寺院の大部分は廃墟となっており、地理的にも不便な場所にあることから訪れる観光客はあまり多くはありませんが、現地を案内するカンボジア人の日本語ガイドが必ずベンメリアを紹介する際に使う説明が「天空のラピュタのモデルになった場所」というものです。

たしかに雨期に訪れると人気のない建物に草が生い茂った様子は映画に出てくる「天空の城」を彷彿させます。また、ラピュタのロボット兵が出てきてもおかしくないような雰囲気があります。そうしたことで現地のガイドから「ラピュタはここがモデルです」と説明を受けると思わず信じてしまいそうになります。が、実際にスタジオジブリに確かめてみると「まったくのうそです」と明確に否定されました。また宮崎駿監督がベンメリアを訪れたこともないそうです。ジブリによると、ベンメリア以外にも多くの観光地が「ラピュタのモデルになった場所」と宣伝しているということですが、 ラピュタは完全に空想から生まれた場所でモデルになったという実際の場所はないとのことでした。

ベンメリア
ベンメリア遺跡

実際『天空の城ラピュタ』が公開されたのは1986年なのに対してベンメリアに外国人が立ち入れるようになったのが2001年です。なので「ラピュタ」の製作当時に宮崎監督がベンメリアを訪れることはもちろんのこと、写真を入手することなども不可能だったと思われます。今後、ベンメリアに行かれる方がこうした説明をされた際は鵜呑みにしませんように。

しかし、このことによってベンメリア遺跡としての価値が下がることはありません。 ベンメリアはアンコールワットよりも前に建てられ、規模は小さいながらも建造物の配置や使われている石材などの共通点が多いため、「東のアンコールワット」と呼ばれています。 この遺跡の周辺からは良質の石が大量にとれ、それらの石はアンコールワットの建造に使われました。こしたことからベンメリアは「アンコールワットを造るための練習台」のような位置づけで建てられたのではないかと推測をする研究者もいます。まだまだ解き明かされていない謎が多くアンコール遺跡ですが、ベンメリアはその創建者すら不明です。

そうした謎に包まれた900年以上も昔のアンコール王朝に思いを馳せるのに、「天空の「城」に似た人気のない廃墟の寺院は最適な場所かも知れません。

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